骨や筋肉の健康と深く関わる「食」の話題をとりあげるシリーズ2回目のテーマは「痩せと健康リスク」です。
令和4年(2022)「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると、痩せの者(BMI<18.5 kg/m2)の割合は男性4.3%、女性11.3%で、ここ10年間でみると男女とも有意な増減はみられません。
けれど20代の若年女性の痩せの者の割合は19.1%と、おおよそ5人に一人の割合が痩せの者に該当します。
一般的に「痩せている=健康的である」と思われがちですが、一概にそうとは言えず、特に「痩せ願望」が強い世代の女性は、ダイエットが健康リスクを伴うことへの理解が必要であるといえます。
痩せている女性は骨折しやすい傾向がある
食事量を極端に制限するようなダイエットを行うと、身体に必要な栄養素が不足しがちになります。
数ある栄養素の中でもカルシウムが不足すると、血中カルシウム濃度を保つために骨から血液中にカルシウムが供給されるため、骨の成長が妨げられたり、骨が脆くなったりする骨粗鬆症の危険性があります。
とくに成長期は骨がつくられると同時に骨がカルシウムを蓄えていく重要な時期ですので、ダイエットによる栄養不足は将来にわたり悪い影響を及ぼします。
過度なダイエットで脂肪細胞が減少すると女性ホルモンの一種=エストロゲン分泌量が減り、骨粗しょう症など更年期と同じような症状が出ることがあります。
エストロゲンは、骨の新陳代謝に際して骨吸収をゆるやかにして骨からカルシウムが溶けだすのを抑制する働きがあります。
そのためエストロゲンが欠乏すると骨密度は著しく減少、骨質が劣化し、骨折しやすくなるのです。
ランナーを始めとするアスリートは、体重を軽くすることが記録更新やパフォーマンスの向上につながるケースがあります。
けれど、BMI <19 kg/m2の女性ランナーはBMI≧19 kg/m2の女性ランナーに比べて疲労骨折のリスクが高い※1ことが明らかになっています。これは米オハイオ州立大学の臨床整形外科学・スポーツ医学准教授ティモシー・ミラー博士らが3年に渡って取り組んだ調査結果によるものです。
同調査チームが最も重度なレベル5の疲労骨折をした女性ランナーのデータを分析したところ、BMI <19 kg/m2では回復後にランニングを再開するまで17週間以上かかったことが判明。BMI≧19 kg/m2は約13週間で回復したのに比べると、痩せている女性ランナーの方方が復帰までに1カ月も長く時間を要したことになります。
痩せた若年女性で耐糖能異常が多くみられ
肥満と同等に糖尿病のリスクが高い
整形外科の領域からは外れますが、日本人の痩せた若年女性(BMI <18.5kg/m2)では耐糖能異常※2の比率が顕著に高い(13.3%)ことを明らかした研究もあります※3。
痩せていても肥満者と同じようにインスリン抵抗性※4や脂肪組織障害が生じている「代謝的肥満」のあることが世界で初めて示されました。
同研究によれば痩せた若年女性の多くは食事量が少なく運動量も少ないという「エネルギー低回転タイプ」で、同時に筋肉量が減少している状態にあるそうです。
(エネルギー低回転タイプの弊害については、後の記事で紹介します。)
十分な栄養と運動で体重を適正に保つことが重要
痩せの改善も肥満と同じように「食」をはじめとした生活習慣の見直しが不可欠です。
運動量の多いアスリートは消費に見合うエネルギー量を食事で補う
運動習慣のない方は普段から積極的に身体を動かすことを心がける
主食(米やパン、麺類)+主菜(肉や魚)+副菜(野菜、海藻、キノコ類)をバランスよくしっかり食べる
ことがポイントです。
肥満の改善と同じようにきちんと食べること重要なのです。
次回は「朝食と身体能力」の話題に迫ります。
※1 Dr. Timothy Miller,(The Ohio State University Wexner Medical Center) “Low BMI Can Increase Risk of Stress Fractures in Female Runners, Study Finds” June 12, 2017
※2 耐糖能異常:75g経口ブドウ糖負荷試験で2時間後の血糖値が140 md/dl以上、200 mg/dl未満となっている状態を指す。インスリン分泌量の低下やインスリンが効きにくいこと(インスリン抵抗性)により生じる。
※3 Motonori Sato,at all “Prevalence and Features of Impaired Glucose Tolerance in Young Underweight Japanese Women” The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 106, Issue 5, May 2021
※4 インスリン抵抗性:膵臓から分泌され、肝臓や骨格筋に作用して血糖を下げるホルモンであるインスリンの感受性が低下して効きにくい状態(抵抗性)を指す。主に肥満に伴って肝臓・骨格筋にインスリン抵抗性が出現し、糖尿病やメタボリックシンドロームの重要な原因の一つとなることが知られている。
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