今回は、女性アスリート特有の健康リスク(以下FAT:Female Athlete Triad / フィーメール・アスリート・トライアド)を取り上げます。
これは前回まで数回にわたり解説してきた「貧血」と深くかかわる問題です。
アメリカスポーツ医学会(ACSM)や国際オリンピック委員会(IOC)などから予防と対応の重要性が強調されています。
FATとは「エネルギー不足」から始まる 「無月経」や「骨粗しょう症」
女性アスリートが陥りやすいスポーツ障害FATは、右図の通り3つの要素が挙げられています。
『利用可能なエネルギー不足』
トレーニングの量や質に見合ったバランスの良い食事が摂れていないと、慢性的なエネルギー不足に陥ります。
↓
『視床下部性無月経』
利用可能なエネルギー量の不足に伴い体重が減り、月経不順(月経があったり、なかったり)や無月経に陥ります。
↓
『骨粗しょう症』
女性ホルモンのエストロゲンと骨密度は関連性があり、無月経に伴う低エストロゲン状態が続くと骨がもろくなる骨粗しょう症に陥ります。
疲労骨折や脆弱骨折、靭帯損傷などの症状を引き起こすほか、将来的な健康リスクにつながる可能性もあり得ます。
右の写真は、疲労骨折の部位を示した例です。
筋肉痛とは異なる痛みが長く続くようであれば、ぜひ整形外科を受診されてください。
チェックとケアに努め、必要に応じて医療機関を受診して
FAT対策は、早い段階でエネルギー不足に気づき、エネルギーを充足することが重要です。
アメリカ医学会では下記の①~③のいずれかにあてはまる場合は、エネルギー不足を疑うとしています。
① 成人 :BMIが17.5以下
② 思春期:標準体重の85%以下
③ 1カ月以内の体重減少が10%以上
運動量と食事量を見直すなど、「スポーツ選手の貧血と食事」の記事で紹介した対策を行うと良いでしょう。
月経トラブルに関して、婦人科・女性アスリート外来の受診を進めるタイミングとしては
15歳で初経がない
3カ月以上、月経が止まっている
パフォーマンスに悪影響を及ぼすほどの月経トラブル(月経痛、過多月経、月経前症候群など)
月経日のコントロールを希望する
疲労骨折を繰り返す
以上が挙げられます。
骨粗しょう症の生活面からの改善は、
カルシウムとビタミンDを適切に摂取する
太陽光を浴びて骨の形成を促す
ことが必要です。さらに詳しい食事面での対策は、過去記事をご参照ください。
整形外科領域でのスポーツ障害として女性アスリートに顕著にみられるのが、非接触性の膝前十字靭帯の損傷です。
特に高校生女子での頻度が男子に比べて数倍高くなっています。
骨が十分に成長できていないため1回の衝撃でも骨折に至る「脆弱骨折」についても、女子中高生に多発しています。
骨を健やかに育て保つには、
バランスよく食べエネルギー不足に陥らないようにすること
月経のリズムを整え、女性ホルモン「エストロゲン」の分泌を良好な状態に保つこと
つまり、FATの三要素はどこまでもつながっているのです。
最後に、順天堂大学女性スポーツ研究センターのFATスクリーニングシートを掲載します。
参考になさってください。
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