ひと昔前は運動前にスタティック(静的)ストレッチを行うことが一般的でした。
しかし近年は数多くの研究で、運動前のスタティックストレッチが筋力発揮=パフォーマンスが低下につながることが明らかにされています。
そのエビデンスを示す研究の一つが、L. Simic氏らによる1966 年から 2010 年 12 月までに発行された104の論文をメタ解析した報告です。
この研究では下記表のとおり筋力・パワー・瞬発力いずれもパフォーマンスの低下を示しています。そして、ウォームアップにスタティックストレッチを用いることは避けるべきであると結論付けています。
<表 スタティックストレッチ急性効果のプールされた推定値>
筋力 | 強度 | 瞬発力 |
---|---|---|
-5.4% | -1.9% | -2.0% |
95% CI: -6.6% ~ -4.2% | 95% CI: -4.0% ~ -0.2% | 95% CI: -2.8% ~ -1.3% |
L. Simic, N. Sarabon, and G. Markovic
“Does Pre-Exercise Static Stretching Inhibit Maximal Muscular
Performance? A Meta-Analytical Review”
Scandinavian Journal of Medicine and Science in Sports
23.2 (2013), 131–48
https://doi.org/10.1111/j.1600-0838.2012.01444.x
スタティックストレッチがパフォーマンスの低下につながる要因としては、筋肉をリラックスさせる自原的抑制といわれる神経反射の作用が挙げられています。
そして数多くの研究で運動前30秒以上のストレッチを実施すると筋力やパワーが低下し、その後のパフォーマンスに悪影響を及ぼすということが明らかとなってきています。
運動前の
スタティックストレッチは
15~20秒間であれば有効
運動前であっても、20秒以内であればスタティックストレッチが有効であることを説いた研究を、2つ紹介します。
一つは2020年に発表された新潟医療福祉大学の運動機能医科学研究所の研究です。
20名の男性被験者の利き足の内側腓腹筋の関節可動域と収縮筋力を、ダイナモメーターを使用して測定し、筋肉の硬さ(せん断弾性率)を超音波せん断波エラストグラフィーを用いて評価。20秒のスタティックストレッチ介入前との比較で、5分後、10分後の関節可動域の増加を示しました。収縮筋力とせん断弾性率に有意な相互作用効果は認めませんでした。
つまりスポーツ分野でのパフォーマンスの観点から、20 秒の スタティックストレッチは、筋力を低下することなく関節を柔軟にするため、運動前の有用なテクニックとなる可能性を明らかにしています。
Sato S, Kiyono R, Takahashi N, Yoshida T, Takeuchi K, Nakamura M.
The acute and prolonged effects of 20-s static stretching on muscle strength and shear elastic modulus
PLOS ONE [in press]
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0228583
二つめが、トルコのガジ大学スポーツ科学部が2018年に発表した、エリートアスリート20名の大腿四頭筋とハムストリングに対するスタティックストレッチングの持続効果を調査した研究です。
5分間のジョギング後 15秒・30秒・45秒のスタティックストレッチを実施した結果、30秒・45秒で筋力が低下、15秒では筋力が向上したと報告されています。
Duration Dependent Effect of Static Stretching on Quadriceps and Hamstring Muscle Force
by Leyla Alizadeh Ebadi *ORCID andEbru Çetin
Sports Sciences Faculty, Gazi University, 06560 Ankara, Turkey
Sports 2018, 6(1), 24;
https://doi.org/10.3390/sports6010024
以上から、運動前に15~20秒のスタティックストレッチを行うことは、パフォーマンスの向上につながる可能性が高いといえます。
ぜひ参考になさってください。
次回は運動後のストレッチについて述べたいと思います。
Comments