競技大会や練習が本格化する今時期、特に気を付けたいスポーツ障害として今回は「肉離れ」を取り上げます。
肉離れは、筋肉が収縮時に正反対の伸ばされる力が加わることによって起こる筋肉の断裂です。
詳しい内容は過去記事を参照ください。
シーズン初めの受傷者が多い理由としては、前回のオスグッド病同様、トレーニング環境の変化に伴い練習メニューが過負荷となっていることが原因と考えられます。
また5月に入ると、中学生は中体連、高校生はインターハイ、大学生はインカレの出場をかけた地区予選大会が始まり、練習試合なども多く開催されるようになります。
大会の開催頻度が高く疲労が残ったまま出場することも、肉離れが発症しやすい要因の一つと推測されます。
やっかいなことに、肉離れで筋線維が損傷すると復帰まで数カ月かかる場合があります。
さらに練習を再開すると同じ部位に肉離れが再発することも多いのです。
ですので、今は特に予防に努めることが大事な時期といえます。
過去記事などを参照に、できることに取り組んでいただければ幸いです。
ハムストリングスの肉離れ予防効果が 科学的根拠をもって示された「筋トレ」と「ストレッチ」
競技によっても異なりますが、肉離れはハムストリングス(太もも裏にある筋肉の総称)に起こる選手が多いです。
今回はハムストリングの肉離れに関する研究から、予防対策としての効果を示した2つをご紹介します。
一つめが「ノルディックハムストリングス(以降NH)」と呼ばれる筋トレです。
アスリートの負荷を考慮しながらハムストリングの損傷率を減らすNHの有効性を調査したメタ解析*1では、NH運動を含む対策プログラムを実施したサッカーチームは、対策を実施しなかったチームに比べ、長期的にはハムストリングの傷害率を最大51%削減したことを示しています。
NHは、膝立ち姿勢で足関節を固定し、膝を基点に上体を前傾する伸張性収縮トレーニングです。具体的な方法は、動画をご参照ください。
二つめが「ジャックナイフストレッチ(以後JKS)」です。
JKSは、床にしゃがんで両手で踵を保持し、体幹と大腿部の前面を密着。大腿部と体幹を離さないようにしながら、少しずつ膝関節を伸展させ、ハムストリングスの痛みに注意しながら伸展できる角度まで伸展するストレッチ方法です。
こちらも動画を参照いただければと思います。
スポーツ傷害で理学療法を施行した成長期の患者34名を2群に分け、1日2回(間隔8時間超)のJKSと従来のスタティックストレッチ(以後SS)実施を指導。2群とも4週後にタイトハムストリングスは改善され、JKSはより高い改善効果を示した研究*2があります。
ハムストリングス由来の傷害予防の方法として、JKSが有効であることを示しています。
さらにJKSの効果を超音波シェアウェーブ(SWE)で筋硬度を比較し統計解析処理をした研究*3 では、伸張による通常のIb抑制(ゴルジ腱反射、筋肉の損傷を防ぐ反応)に加え、大腿四頭筋の収縮を利用した相反神経抑制によるストレッチ効果が加算される可能性の報告があります。
ですが肉離れを含むスポーツ障害は、どれだけ入念に予防に努めていても、受傷する時には受傷してしまう類のものです。
経験のない選手の場合、肉離れと気づかずダメージを大きくしてしまうケースもあります。
「走ると痛い」「動くと痛い」という症状がある場合、できるだけ早めに整形外科を受診するのが安心です。
次回は、主に小中学生の「投球障害肩」(リトルリーグ肩)について取り上げたいと思います