院長 原 則行

2023年8月21日3 分

熱中症のエビデンス③複合サプリの有用性ほか

最終更新: 2023年9月3日

8月も下旬に入り北海道では秋の気配が感じられるようになってきましたが、この先も30℃を超える予報が出ています。本州では猛暑が続き、熱中症警戒アラートが広く全国に発表されています。引き続き熱中症への十分な警戒が必要ですね。

さて今回は、28日に催される北海道マラソン参加ランナーさんにも役立ちそうな論文2つ紹介します。

一つが「温熱環境での激しい運動後の筋肉ダメージと肝臓・腎臓の機能に対する複合栄養型サプリメントの影響を調査した研究」※1です。

同研究は参加者85名を

  • 複合サプリ

  • ブドウ糖サプリ

  • 水分単独

の3グループに分けてデータを採取し、比較検討したものです。

連続摂取試験で採用された「複合サプリ」の内容ブドウ糖13.5g、果糖6.5g、マルトース(麦芽糖10.0g、ナトリウム7.5mmol、タウリン3.5gの他、ビタミンB1・B2ビタミンCビタミンKです。

「ブドウ糖サプリ」はブドウ糖30gです。

連続摂取試験では、各グループに対応する飲料を7日間補給した翌日にテストを行い、対応飲料500 ml(250mlを20分間隔で2回に分けて)摂取した30分後にWBGT32 (危険レベルに相当)の環境で3 kmのランニング(タイムトライアル)を行うように編成。その24時間後に血液を採取し、肝臓と腎機能を反映するパラメーター(AST、ALT、GLU、BUN)、 筋肉損傷マーカー(クレアチンキナーゼおよび乳酸デヒドロゲナーゼ)などを検出して比較検証を行いました。

上の結果のあらましは下記の通りです。

  • 3km走後のAST値(肝機能マーカー)は複合サプリ群が他の2群よりも有意に低くAST上昇反応の抑制が認められた

  • 複合サプリ群では運動後のクレアチニンおよび尿酸値の変化が、他の2群より有意に少なかった

  • 炎症・酸化ストレスマーカー(IL-6、TNF-α、SOD、8-iso-PGF2α等)の値の比較によると、複合サプリ群は運動後の炎症反応や酸化ストレスが他の2群よりも抑制されていることが明らかになった。

  • 3kmタイムトライアルのタイムは、微小ではあるが複合サプリ群が有意に短くなっていた(ブドウ糖サプリ群と水分単独群では有意差はなかった)。

研究者らは検証討論の末、複合サプリ補給が筋肉のダメージ回復を促し、温熱環境での運動によって引き起こされる肝臓や腎臓の機能の低下を抑制することを示唆しています。

先だって複合サプリを補給することにより温熱環境での炎症反応を防ぎ、抗酸化ストレスによって引き起こされる二次的ダメージを阻害するという点を明らかにした同研究は、熱中症を潜在的に防ぐ戦略としてとても重要な意味を持つかと思います。


 

2つめの論文は「温熱環境での運動中の頭、顔、首の冷却が運動パフォーマンスを向上させるという戦略についてのナラティブレビュー論文」※2です。

同論文の詳細は省きますが、結論として

  • 首や顔、額のみの冷却は、クーリングベストや全身浴などの冷却に比べ設備面や重量面の負荷が少ない

  • 首や顔、額は熱知覚が大きいため、局所冷却によって比較的大きな効果を期待できる可能性がある(ただし、その効果に関するデータはまだ少ない)。

と説いています。

北海道マラソンなど暑い時期に参加するランナーさん暑い時期の試合や記録会に挑むアスリートの皆さんは、

  • 大会前から複合サプリを補給し

  • 競技中は給水ポイントなどで首や顔、額を冷やす

と良いのはないかと思います。

外部冷却には他にも方法があります。ぜひ過去記事もご参照いただき、残暑を乗り切っる策としていただければ幸いです。

<参考文献>
 
※1
 
Wei CB, Zhao SN, Zhang YT, Gu WB, Kumar Sarker S, Liu SB, Li BZ, Wang XY, Li Y and Wang X (2021) 「Effect of Multiple-Nutrient Supplement on Muscle Damage, Liver, and Kidney Function After Exercising Under Heat」: Based on a Pilot Study and a Randomised Controlled Trial. Front. Nutr. 8:740741. doi: 10.3389/fnut.2021.740741
 

 
※2
 
Cao Y, Lei TH, Wang F, Yang B, Mündel T. 「Head, Face and Neck Cooling as Per-cooling (Cooling During Exercise) Modalities to Improve Exercise Performance in the Heat」: A Narrative Review and Practical Applications. Sports Med Open. 2022 Jan 29;8(1):16. doi: 10.1186/s40798-022-00411-4. PMID: 35092517; PMCID: PMC8800980.
 

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